今回は土壌改良として利用する家畜のコンポストが畑に蓄積銅をもたらす可能性がある、という内容です(1)。
省略語:
・牛ふんコンポスト→(牛)
・豚ふんコンポスト→(豚)
コンポストは農作物の生産増進や地力維持を目的として、畑に施肥されるが、家畜ふんコンポストの連用により、家畜飼料添加物に由来する重金属が畑に蓄積することが近年明らかになってきた。
実際に、イギリスでは豚の整腸機能の向上を目的とし酸化亜鉛を飼料に配合したり、免疫力の向上を目的として、硫酸銅を飼料に配合したりしている。
多くの微量元素は家畜に吸収されるが、吸収されなかった重金属元素が家畜ふんコンポストには存在し、亜鉛(Zn)や銅(Cu)は、家畜飼料含有量の5倍~12倍にもなるという事例もある。
このような重金属元素を含むコンポストの連用は、土壌汚染だけでなく農作物や食物連鎖にも影響を与えると懸念される。
そこで、筆者らは3種類の畑土壌(褐色低地土、黒ボク土、褐色森林土)に化学肥料および家畜ふんコンポスト((牛)および(豚))を5年間連用した試験区を設け、各畑土壌およびそこで栽培したコマツナ(植物体)の重金属含量について調査した。
■方法
①(牛)と(豚)は年間、33Mg/ha施用した。化学肥料は硫酸アンモニウム(N=0.36Mg/ha)、硫酸カリ(K2O=0.44Mg/ha)、過燐酸石灰(P2O5=0.36Mg/ha)を施用した。その間、バレイショ、ブロッコリー、カブ、ニンジンなどを1年に2作ずつ栽培し、これを5年間行った。
②5年後に、それぞれの区画でコマツナ300株を1か月栽培し、そのうち30株を収穫し、地上部と地下部に分離し、植物体に含まれるCuとZn含有量を測定した。
■結果
表1に、施用した(牛)と(豚)に含まれるCuおよびZn含有量を示した。
(豚)のCu含有量は極めて高い値を示した。(牛)には(豚)に比べ可溶性のZn含有量が高かった。また、化学肥料中の重金属含有量は極めて少なく、実験結果に影響を与えないことはあらかじめ確認済みである。
イギリスでは(豚)におよそ500mg/kgのZnおよび360mg/kgのCuが含まれていると報告されているが本実験で用いた(豚)にはそれらよりも多くのZnとCuが含まれていた。
図1には、コマツナの地上部と地下部でのZnおよびCu含有量を示した。Znについては、黒ボク土および褐色森林土において(豚)施用区のZn含有量が他の区に比べて、高かった。褐色森林土では地下部においてもZn含有量が高かった。褐色森林土および黒ボク土には可溶性Zn含有量が褐色低地土に比べて高いことから、作物への移行に影響していると考えられる。
Znの含有量と比べるとCuの含有量は全体的に低く、大きな差はなかった。しかしながら、コマツナの地下部は地上部に比べると小さいことを考慮すると、CuもZnも吸収された大部分は地上部に移行していることがうかがえる。
(豚)にはCu含有量が多かったのだが、コマツナにはそれほどCuが含まれていなかったことに対して、筆者らは次のように述べている。土壌の重金属保持力は一般的にCu > Znであるので、CuよりもZnの方が作物への移行性が高いものと思われる。また、表1から、CuよりもZnの方が可溶性のものが多かったことから、Znはコンポストおよび土壌蓄積の双方から作物へ移行する傾向があり、一方でCuは、――可溶性のものがコンポストに少ないことから――いったん土壌に蓄積したのちに作物に移行する傾向があると考察している。
■結論
(豚)は標準的な施用量であっても長期間の連用により、ZnとCuの土壌への蓄積、および、Znの作物への移行性、の2つの可能性が示唆された。
■kanitonekoの感想
土壌改良の目的で施用する家畜ふんコンポストさえも銅や亜鉛などの重金属が畑に混入してしまうルートになるということは、全く思いつきもしなかったので、驚いた。銅を畑にもたらすものは銅剤だけではなかった。
個人的に、疑問に思ったのは、本研究において、(豚)には可溶性の銅は少ないが、施用する畑の土壌酸度が低かった場合には、可溶性の銅が増加するのかどうか、という点である(参照:「ボルドー液 その6」)。
本研究では、特に(豚)に含まれる重金属が問題とされているが、(牛)に注目している研究報告もある:スペインのPenedès地区で(牛)によるブドウ畑の重金属蓄積を調査した報告によると、施用した(牛)の中には、銅が35mg/kg、亜鉛が142mg/kg、マンガンが135mg/kg含まれていたことがわかり、連用することで、ブドウ畑にもこうした重金属が蓄積していく可能性が示唆されている(2)。これらの値は、表1に示された値よりも小さいことから、本研究で施用された(牛)も連用していけば、土壌に重金属が蓄積することは避けられないだろう。
以上のことを鑑みると、施用する家畜ふんコンポストの「由来」も無視できなさそうである。
本研究の内容は、厳密にいえば、ボルドー液とは関係ないが、ブドウ畑にも家畜ふんコンポストを施用することもあり、また畑に蓄積する銅の挙動という点で参考になると思い紹介した。
さて、これまで主に蓄積銅に関して見てきたのだが、次回からは銅が植物や土壌生物にどういう影響を与えるのか、というところを見ていくことにしよう。
参考文献:
(1)萩山慎一
et al.(2005)家畜ふんコンポストを施用した各種畑土壌におけるコマツナによる亜鉛と銅の吸収.日本土壌肥料学雑誌.76:293-297
(2)Ramos M.C. (2006)Metals in vineyard soils of the Penedès area (NE Spain) after compost application. Journal of Environmental Management. 78:209-215.
独り言:
5月はこれでおしまいです。