今回は、「有機栽培とビオディナミ その1~5」を振り返ってのまとめとなっております。長いです。時間に余裕のある方は、「その1~5」をご覧になってから、お読みください。こちらも長いです。
省略語:
・従来の栽培方法 → (従来)
・有機栽培 → (有機)
・ビオディナミ → (ビオ)
■農法の違いによる栄養価
Worthingtonらは、(従来)と(有機)での農作物の栄養価の違いを調査した41もの研究報告をまとめた結果、有機農作物は、(従来)の農作物よりも栄養価に富むと結論を下している(1)。
一方で、スイスのMäderらは21年間に及び、コムギ、ジャガイモ、クローバーを輪作させた土地において調査した結果、農法の違いによる農作物の品質の差はなかったとしている(2)。
同様の結果は、Kristensenらの研究からも得られている。彼らは、ニンジン、ケール、エンドウ豆、ジャガイモ、リンゴの5品目について(従来)と(有機)で栽培を行い、農作物の栄養価を調査したが、大きな差はなかったとしている(3)。
また、(有機)と(ビオ)の違いについては、8年間にわたるブドウ栽培で比較した結果、ブドウの果汁成分に大きな差は見られなかった、とReeveらは報告している(4)。
ということで、(従来・有機・ビオ)の農法の違いによって生産された農作物の栄養価については、答えが割れているのが現状であって、なんとも言えない。今のところ答えは、白とも黒ともいえない、グレイゾーンにあるので、しばらく様子をみるしかなさそうである。
しかし、現実には、人それぞれの立場があるので、どちらか一方の意見を支持している人は少なくないはずだ。例えば、有機農業を営む人ならば、「有機農作物は栄養価に富む」と宣伝したくなるのは当然のことだろうし、農薬会社なら、「農法が違っても品質は同じだから、安定して生産できる方法がいい」と主張するにちがいない。しかしながら、少なくとも、なんらかの根拠を持たず、自分の立場によって、答えをねじ曲げてしまうようなことをするのは避けるべきである。
■農法の違いによる環境への負荷
(従来)と(有機)の農作物で栄養価に差がみられなかったKristensenらの研究(3)を受けて、SCI(the Society of Chemical Industry)の名誉幹事であるBaylis 博士は、こう述べている。
「近年、殺菌剤や殺虫剤、除草剤などの使用は厳しく規制されている。また、土壌においては、有機肥料であろうと化学肥料であろうと、化学物質的には同様のものである。有機農法は(従来の農法に比べて)しばしば収量が低いことがあるのだが、それら有機農作物を食すのは、お金に余裕のある人の生活スタイルにおける自由な選択である。」(5)。
農法の違いによる栄養価はとりあえず、ここでは置いておくことにしても、これは言いすぎであるように思える。栄養価に関してはなんとも言えないのだが、農法の違いによる環境への負荷には差がみられるからである。
Mäderらの21年間におよぶ(従来・有機・ビオ)の3つの農法の調査結果からは、(有機・ビオ)は(従来)と比較して、動植物や土壌微生物等にプラスの影響を及ぼしていることが明らかになっている。また、生物相が豊かになることで、肥料や農薬の投与も大幅に削減することができたと報告している(2)。
同様のことは、Carpenter-Boggsらのブドウ畑で行った研究からも支持されている。彼らは、(従来・有機・ビオ)の畑を2年間調査したのだが、2年間という短期間でも、(有機・ビオ)の畑では、土壌微生物の活性が促されたことを報告している(6)。
したがって、少なくとも土壌微生物やそこにすむ動植物については、(従来)よりも(有機・ビオ)の方が、プラスの効果があり、その結果、持続的な農業を可能にさせてくれるのである。
たまたま、読んだ文献に偏りがあったのかもしれないが、現段階では、(有機・ビオ)の環境に対する負荷は(従来)に比べ少ないと言えよう。
■まとめ
(従来)に比べて、(有機・ビオ)は、土壌微生物や畑にすむ他の生物に対してプラスの効果があるといえる。しかしながら、そのことが、植物体や農作物の栄養価までにいい影響を及ぼすかどうかについては意見が割れている。
■おわりに
上の図はブルゴーニュ地方コート・ド・ニュイの写真である(7)。こうした景色を目の前にすると、その雄大な姿にいつも圧倒されてしまう。しかし、よくよくこの景色を眺めていると、なんとも言えないある不思議な違和感を覚える:そこには、ブドウ樹という植物しか植えられておらず、しかも、その単一の植物が幾何学的ともいえるほどまでに整備され並べられているのだ。もはや「自然」ではない。人工的な建造物のニュアンスを「自然」だと思い込んでいた景色の中に見出してしまったことによる違和感。
おそらく、こうした「建造物」を作らないことが、環境や多くの動植物にとって、やさしいことであるには違いない---これは極論。そうはいっても、人間は他の動植物を犠牲にしてでも、食べなくてはならない。重要なのは、その方法や程度。なるべく、環境にやさしく、何世代も先の人たちや動植物に少しでも安心して暮らせるような方法を考え、実行していかなければならない時。
とりあえず、手始めに、エコバッグはじめました。
と、いうわけでこのシリーズおしまい。面白かったので、また新しい知見が手に入ったら、「有機栽培とビオディナミ シーズン2」をしたいと思います。今度は、もうちょっと、ビオディナミとワインについて見ていきたいかな。
参考文献:
(1)Worthington
et al.(2001) Nutritional Quality of Organic Versus Conventional Fruits, Vegetables, and Grains. The Journal of Alternative and Complementary Medicine.7(2)161-173.
(2)Mäder Paul
et al.(2002)Soil Fertility and Biodiversity in Organic Farming. Sience(296)1694-1697
(3)Kristensen Mette
et al.(2008)Effect of plant cultivation methods on content of major and trace elements in foodstuffs and retention in rats. Journal of the Science of Food and Agriculture.88:2161-2172.
(4)Reeve J.
et al.(2005)Soil and winegrape quality in biodynamically and organically managed vineyards. American Journal of Enology and Viticulture 56(4):367-376.
(5)http://beta.soci.org/press-office/organic-evidence/
(6)Carpenter-Boggs L.
et al.(2000)Organic and Biodynamic Management: Effects on Soil Biology. Soil Science Society American Journal.(64):1651-1659.
(7)de.wikipedia「Weinberg」