今回は、ボルドー液由来の銅が土壌中にどのように分布しているのかについての論文である(1)。
土壌中に銅が過度に存在すると、植物の成長に影響を及ぼす。その程度は、土壌のpH や有機物の量、土性、炭素、リン、土壌微生物といった多くの要因が関与している。また、銅などの微量要素は土壌深くでは量が少なくなっていくことを考慮すると、植物体の根の土壌中での分布も銅に対する影響に関与することになる。
そこで、ポルトガルのMagalhãesらは、長年、ブドウべと病対策に銅剤を使用し続けてきた2つのブドウ畑において、①土壌中の銅とブドウ樹の根の垂直分布を調査した。2つのブドウ畑のうち一つは1.23ha の平地(A)であり、もう一方は丘陵の斜面の0.12ha の畑である(B)。さらに筆者らは、A、Bの畑において②1年間に8回銅剤を散布したブドウ樹の葉身と葉柄、ブドウ果汁中での銅の量、および他の微量要素の含有量についても調査を行った。
■①銅と根の垂直分布
●平地(A)の畑(1.23 ha)について
(A)では、ブドウ樹の根は深さ5-135 cm ほどに分布しており、最も密度の高い部分は、20-100 cm ほどであった。
土壌深くに進むにつれ、粘土の割合が多くなり、砂の割合が少なくなるなど土性は変化していくものの、土壌中のアルミニウムや鉄、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マンガンといった微量要素の量は土壌の深さとは関係がなかった。
一方で、銅は地表面に近いほど多く存在しており、深さ0-20 cm のところに最も銅が存在していた:0-20cm の深さで130.2 ppm、100-135cm の深さで23.4 ppm。検出された銅から、畑全体の銅を算出すると、約1067kgであったのだが、これは、43年間にわたり銅剤を1年間に7回散布していたことから計上した銅のブドウ畑への流入量とほぼ同じ値を示した。
●丘陵(B)の畑(0.12 ha)について
(B)では、ブドウ樹の根は深さ15-115 cm ほどに分布しており、根の密度が最も高いのは30~90cm の深さであった。
(B)の畑では、深さ1m以降、異なる地質が偏在していために、土壌の深さと微量要素の量の関係について詳しい考察はできなかった。しかし、(A)の畑と同様に、銅は地表面に近いほど多く検出された:0-25cm の深さで、58.4 ppm、100cmより深いところで、40.35 ppm。
21年間におよび、ブドウ畑に散布してきた銅の流入量は12.5kgと計算され、一方で、深さ50cm までの銅の推定量は8kgであった。このことからも、銅は深さ 0-25/30cm 付近に多く残留していることがうかがえる。
A・Bの両畑において、銅は、他の微量物質とは異なり、地表面に最も多く存在することがわかった。また、検出量から推定される畑全体の銅の量とこれまで散布してきた銅剤に含まれる銅の量(流入量)は、計算上ほぼ一致していた。つまり、検出された銅の大部分は銅剤由来であることが示唆される。
■②葉と果汁中の銅の量
・平地(A)の畑(品種:アリカンテ・ブランコ)
1年間に8回銅剤を散布したブドウ樹の葉身と葉柄および果汁中の銅の量を測定した結果、葉身では銅は1490 ppm、葉柄では56ppmであり、銅を散布しなかった区画ではそれぞれ520 ppm、21ppmであった。葉身、葉柄ともに銅剤散布区と非散布区とで、窒素やリン、カリウム、カルシウム、マグネシウムといった他の微量要素の検出量には差はなかった。
果汁中には、0.25-0.50ppm 銅が検出された。
・丘陵(B)の畑(品種:ティンタ・ミウダ)
銅は葉身には260ppm、葉柄には45ppmあり、銅剤を散布していない区画では、それぞれ130ppm、26ppmであった。上記同様に、微量要素の検出量には差は見られなかった。
果汁中では、0.38 ppm 検出された。
Gärtel(1959)は健全なブドウの葉身には銅は17-34ppm、葉柄には、6.5-11.5ppm ほど検出されると報告しているが、この報告に比べると今回、検出された値は異常なまでに高い。これに対して、筆者らは、銅は葉の内部に入っていくので値が高くなってしまうのではないかと推測している。また、銅剤を散布しなかった区画においても銅の検出量が多かったことに対しては、ポルトガルの気候では、Gärtelの報告(ドイツ)に比べ、銅に対する許容量は高いのでは、と述べている。
一方で、果汁中の銅の量は、これまでに多くの国で報告されている量(0.285-63.34 ppm)に比べるとかなり少なかった。
■結論
(a)銅の毒性は土壌のpH が低い(pH 5.0以下)と強くなるのだが、A・Bの畑では土壌のpH が8.0 前後であったこと。(b)ブドウ樹は一般的に銅耐性であること。(c)ブドウ樹の根が高密度に存在する深さと銅濃度の高い深さは同じではないこと。(d)葉身や葉柄で銅濃度は高かったにもかかわらず、銅による障害は観察されなかったこと(e)A・Bの畑でのブドウの生産量には異常がみられないこと、から今回検出された銅の量はブドウ樹に悪影響を及ぼさない、と結論付けている。
■kanitoneko の感想
Magalhãesらの研究は土壌中の銅とブドウ樹の根の分布を調べただけである。この2つの分布が異なるということを、これまでの観察からくる経験的な結果と結び付けるだけで、目に見えない水面下での銅の挙動について詳細な実験は行っていない。いないにも関わらず、検出された銅(たとえそれが少ない量だとしても)による影響はない、と結論付けるのは時期尚早であるように思える。
しかしながら、これ以降、Magalhãesらの研究内容を土台として、そこに少しずつ新しい知見が積み重なっていくかたちで、「ブドウ畑での銅の蓄積」に関する研究が盛んになり、また研究内容も多岐にわたるようになってくる。比較的、近年の研究においても彼らの研究は参考文献として引用されることが多いため、今回紹介してみた。
次回も同様に、ブドウ畑の銅の蓄積に関するものである。もちろん、新しい見解が加わった研究報告である。「その3」につづく。
参考文献:
(1)Magalhães M.J.
et al., (1985)Copper and zinc in vineyards of central Portugal. Water, Air, and Soil Pollution.(26);1-17.
独り言:
あ。すでに雇われているのが傭兵なのか!