「有機栽培とビオディナミ その2」では、(有機・ビオ)の畑は(従来)と比較して、土壌の生物にプラスの効果をもたらすことをみてきたが、今回は前回の報告を支持すると同時に、(有機)と(ビオ)を比較している研究報告を2つ紹介する。
(1)アメリカのワシントン州のCarpenter-Boggsらは、(ビオ)で使用する調剤が土壌に与える影響を調べるのと同時に、(有機)と(ビオ)との違いを明らかにしようと試みた。1995年と1996年の2年行われ、以下に示す4つの農法で処理した畑を調査した。
①有機肥料
②有機肥料+ビオディナミの調剤
③化学肥料
④無処理
つまり、①が(有機)、②が(ビオ)、③が(従来)ということになる。
調査結果から、有機肥料をいれた畑(①と②)は、入れていない畑(③と④)に比べると生物の活性の指標となるさまざまなパラメーター(微生物が利用可能な炭素、呼吸量、養分を分解する酵素など)が高いことがわかり、たった2年間という短期間においても、(従来)から(有機・ビオ)に転換することで、すぐさま土壌の生物の活性を促す効果がある、ということが示された。
一方で、(有機)と(ビオ)を比較してみると、大きな差はなかったことから、(ビオ)において土壌生物の活性がみられたのは、(ビオ)の調剤の効果というよりも、有機栽培と同様の肥料を使用したことが原因ではないかと考察している。この点について、筆者らは、実験区が(ビオ)転換期であったため差がなかったのかどうかについては不明瞭であり、これを明らかにするためには長期的な研究が必要であるとしている。
閑話休題...
上述の研究でも(有機・ビオ)は土壌の生物相に有益な効果をもたらすことが示されたのだが、(有機)と(ビオ)には大きな差は見られなかった。そこで、次に、この違いに焦点をあてた、アメリカのカリフォルニア州で行われた研究を紹介しよう。
(2)Reeveらは、公式に認定されている(有機)と(ビオ)のブドウ畑を用いて、1996年~2003年の8年間にわたり両者の畑の土壌とブドウの分析を行った。測定項目は多岐にわたる:土壌については、土壌中の微量要素を測定する一般的な土壌分析に加え、有機物量、CO2排出量、CEC、ミミズの量などであり、ブドウについては、房重量、顆粒重、糖度、全フェノール、アントシアニン量などを測定した。
その結果、(有機)と(ビオ)では、土壌成分やブドウ樹の栄養状態、ブドウ果汁に大きな差は認められなかった。唯一、差がみられたのは、一本のブドウ樹に対する房数/重量の割合が(ビオ)の方が(有機)に比べて適正値に近かった、つまり(ビオ)の方がブドウ樹に無理なくブドウを生産させていた、という点のみであった。
8年間におよぶ調査結果から、(ビオ)は(有機)に比べて、よりバランスのいいブドウ生産を行えるようになる、ということだけが違いとして認められた。この事実を確かなものにするためにも、そして他の差を見出すためにも、著者らはさらに調査を続けていくと述べている。
と、いうことで、今回の2つの研究報告をまとめると、(有機・ビオ)はとにかく土壌の生物にとっていい影響を及ぼすというのはどうやら間違いなさそうなのだが、(有機)と(ビオ)を比較してみると、それほど大きな差は認められない。ということになる。
さて次回は、栽培方法の違いによる農作物の品質についてみていこう。つづく。
参考文献:
(1)L. Carpenter-Boggs
et al.(2000)Organic and Biodynamic Management: Effects on Soil Biology. Soil Science Society American Journal.(64):1651-1659.
(2)J. Reeve
et al.(2005)Soil and winegrape quality in biodynamically and organically managed vineyards. American Journal of Enology and Viticulture 56(4):367-376.