前回まででリーフロールの原因となるウイルス、リーフロールの症状をみてきましたが、今回はリーフロールによりもたらされる経済的損害についてです。
実のところ、GLRaVだけでなく、ブドウのウイルスがブドウ樹の中で具体的に何をしているのかは分かってはいません。リーフロールのあの葉が丸くなったり赤く染まってしまうのも、ウイルスに直接的な原因であるのか、または植物のアポトーシスが原因であるのかはわかりません(「アポトーシス」とは、簡単に言うと、内的・外的要因により細胞に異常があらわれるとそれを他の健全な細胞に症状を広げないように異常をきたした細胞が自滅すること(7))。
しかし、少なくともリーフロールという病症があらわれるブドウ樹には品質や収量に影響があります。収量に関しては、その損失は、約20%とも(3)、30~50%とも(5)、40~60%(4)とも言われ、値はまちまちですが、収量の減少があることは確かであります。また、ブドウの品質に関しては、ブドウの成熟が遅くなることやブドウの色づきが悪くなる、さらには糖度が上昇しないということは異口同音で報告されています(1,2,3,4,5,6,8)。下の写真は左側が健全なブドウ、右側がリーフロールに罹ったブドウ(5)。
品質と収量に多大な損害を与えるリーフロールですが、ウイルス由来の病気の本当の恐さはその伝播の早さにもあります。
あるブドウ畑では、GLRaV-3に感染した1列(40株)のとなりに非感染の新しい株を4列(計160株)新たに植えてみたところ、6年間で新しい4列への感染率は30%であったそうです。この結果をもとに作成したGLRaV-3感染伝播モデルによれば、20年後には100%の株がGLRaV-3に感染してしまうそうです(4)。さらには、病害虫や病害菌のように、ウイルスを防除あるいは治療する農薬は今のところ存在しません。ですので、感染したブドウ樹は早期に根っこから引き抜いて、他のブドウ樹への感染拡大を防がなくてはならないのです。
余談になりますが、日本ではブドウ栽培において主流の仕立て方のひとつに棚仕立てが挙げられます。この棚仕立てでは、一本のブドウ樹に数百房を実らせます。もし仮に、この樹がウイルスに感染し、引き抜かなくてはならない状況になると、大きな経済的損害になるでしょう。逆に、ヨーロッパにおける株や垣根での仕立て方では、1株のブドウ樹で数房しかブドウを実らせないので、棚仕立てよりもウイルス感染の対処時の経済的損害は棚仕立てのそれに比べると少なくいのでは、と思いましたが、いかがでしょうか。
ということで、次回は「クワコナカイガラムシ その2」です。
「ウイルス その1 リーフロール(前編~後編)」までの参考文献:
(1)Washington State University(2007) 2007 Pest Management Guide For GRAPES in Washington, Extention Bulletin 0762, 23-24.
(2) Martelli G.P. and Boudon-Padieu E.(2006)ICVG,Directory of infectious diseases of grapevines,60-77
(3)中野正明 中畝良二,ブドウウイルス病とその判別法,農業・生物系特定産業技術研究機構
(4)J.T.S. Walker et al(2004)Leafroll virus in vineyards:modelling the spread and eonomic impact.New Zealand Winegrowers(www.hortresarch.co.nz)
(5)Marc F. Fuchs(2007)Grape Leafroll disease, Cornell University, (6)Deborah Golino et al.,(2002)California mealybugs can spread grapevine leafroll disease.California Agriculture. vol.56-6,196-201
(7)「アポトーシス」wikipedia.jp
(8)Sally O'Neal Coates(2003)Crop Profile for wine grapes in Washington,Washington State Pest Management Resource Service(http://wsprs.wsu.edu)