ブドウの収穫もほとんど終えた頃、ブドウ畑を散策していると、収穫されずに、その場に放置されていたブドウの実が目に付いた。いわゆる果房という出で立ちではなく、"つる"に申し訳なさそうにいくつかの実がついているような状態だった(下図)。
以前"つる"のことについて書いたことがあるのだが(2006年7月18日の記事)、その中で「つると果穂の中間体(以下、中間体)」という存在に触れていた。ブドウ畑に残っていたのは、その「中間体」が成熟したものであった。上の写真を見てみると、やはり果房というにはほど遠く、つるに実がついていると言った方が適切なような気がする。そこで今回は、これら「中間体」がどのようにして形成されるのかについてみていこうと思う。
つると果穂はその由来を等しくするということは前回の記事で既に述べた。そこで、右の図を見てもらいたい。この図は、休眠前の芽の断面図を示している。冬場、芽の中では翌年に備えて新梢の設計図をこしらえるのだ。図の中には第1葉や花部(花ができる部位のこと)が既に形成しているのが認められる。
図の中で、花部Aと花部Bは大きくよく発達している。よく発達している花部が翌年の新梢が出てきたときに、果穂となって花が咲き、実を結ぶものとなる。一方で花部Cは花部A・Bに比べると、ほとんど発達していないのだが、これが「中間体」となるのだ。最後に花部Dを見ると、全く発達していないのが分かる。こういった全く発達しなかったのが、翌年につるになる。
花部がよく発達するかしないかは、気候などの環境要因も影響するのだが、一番影響があるのは、樹勢や品種である。樹勢の強いものは、より多くの発達した花部を持つ。だからといって、たくさん発達した花部をもつことが必ずしも良いことにはならない。あまりにもたくさん果穂がでてしまってもブドウの品質に影響がでてくるだろうし、出現の遅い果穂は開花が遅くなり結実も遅く、最終的には、いわゆる"二番なり"というおいしくないブドウになってしまうからだ。
まとめると、正常な果穂ができるためには、休眠芽が正常に育たなくてはならない。かといって、正常な果穂ができすぎてもブドウ栽培者にとっては困る、ということである。「中間体」は文字通り、このような状況下で板ばさみにあい、緩衝的な役割を果たしているのかもしれない。